中国問題のジャーナリストによる中国人民解放軍(解放軍)の解説書である。尖閣諸島領有をめぐる日中の緊張関係は、戦争への懸念をもたらしている。なれば関心が向かうのは解放軍だが、実態がわからず単純な見方で捉えられがちだ。
本書は解放軍への複眼的視角を培うことを狙いとし、解放軍の意思決定メカニズム、個別部隊の役割など具体的なシステムを子細に解説してゆく。たとえば組織内の実質的権限を握るのは陸軍・総参謀部である。心臓部の総参一部は有事の際には各司令部へ命令を下す。単なる上意下達式のようだが、組織内に「絶密」級とされる独自の研究機関が存在し、総参謀部を情報分析面で援助しているのだ。
解放軍はその秘密主義ゆえに不安を煽りやすい。しかしマスコミには接触を拒んでも、ビジネスマンには懐が緩み、特別待遇を施すこともある。著者が述べるように「真に警戒が必要な中国もあれば、そうでない中国もある」側面を知ることで不安は和らぎ、隣国への冷静な見方が養われるだろう。
週刊朝日 2013年1月25日号