昭和29年に松竹大船撮影所に入社して以来、映画製作にたずさわってきた名物プロデューサーが、映画スターや監督たちのエピソードや製作の裏話を語る回想記。
 私生活を一切語らず、周囲は彼が結婚したことすら知らなかった渥美清、激烈な存在感ながら演技はでくの坊だった渡哲也などスターの素顔も興味深いが、個性強烈なのは監督たち。女性映画で有名な原研吉は撮影中に酒を飲み、しばしば愛人宅に抜け出す。松竹ヌーベルバーグの旗手、大島渚は大物監督を「不要」と切って捨てた過激派だが、現場をまとめ上げる天才的オーガナイザーでもあった。松竹三巨匠の一人・渋谷実はエゴのかたまりで、著者は彼の理想と我儘に振り回された。衝突と怒鳴りあいを繰り返した製作現場は壮絶の一言に尽きる。
 時代に取り残され消えていく映画人たちの姿も容赦なく描写、才能がぶつかり合う弱肉強食の世界を生々しく映し出す。そこで生き抜いてきた著者も一筋縄の人ではない。名の残る仕事をしようという野心と時代の熱気が行間にあふれている。

週刊朝日 2013年1月4-11日新春合併号