江戸時代安政年間、庶民に親しまれた流行歌である端唄から派生して生まれた小唄は現在まで歌い継がれてきているだけでなく、今も新曲が発表されているという。著者はその小唄の扇派2代目家元。テレビ、ラジオなどで古典の魅力を伝えるほか、シンセサイザーを加えた現代的な小唄の新曲を発表するなどして、精力的に小唄の魅力を発信している。
 粋でイナセな江戸情緒が盛り込まれ、短い曲のなかに伝統的な邦楽の全ての芸のエッセンスが凝縮している、と著者は言う。小唄の創始者、清元お葉の唄を紹介しつつ、その始まりをひもとき、三味線と唄の「間」について、人を艶やかにし、ダイエットにもなるという小唄の効能、自身の修業時代や、「芝居小唄」の創始者である吉田草紙庵の逸話などが記される。
 さすが、語り口がよく、するすると読める。特に、著者自身が小唄を引きつつ、江戸の情景を語った文章がよい。それを読みながら、付属CDの「小唄江戸巡り」を聞き、時空を超えて江戸の町への散歩に出かけるのもオツなものだ。

週刊朝日 2013年1月4-11日新春合併号