2009年、本書の著者である塚本勝巳東京大学海洋研究所(当時)教授が率いるチームが、天然のニホンウナギの卵を採集し、産卵の時期と位置を厳密に特定したことは記憶に新しい。
 本書は、発見に至るまでの軌跡とウナギの回遊の謎、さらにはシラスウナギ不漁の原因や、卵からのウナギ養殖の可能性も論じた一冊だ。
 まず冒頭で示される「なぜ、動物は旅に出るのか」という巨視的な視点が興味深い。そしてもともと深海魚だったウナギが回遊魚へと進化した過程が論じられ、こちらもすこぶる面白いのだが、やはり、長い時間をかけ、試行錯誤を繰り返しつつウナギの産卵場所を徐々に特定し、ついに卵の発見に至るまでの描写が何より読む者を惹きつける。
 広大な海を面で網羅的に調査して、「いない」ことを確認することで「いる」可能性のある範囲を狭めていくグリッドサーベイと、データに基づく「三つの仮説」によって、ついには卵を採集するに至る記述からは、科学の現場のすさまじさを体感できるだろう。

週刊朝日 2012年11月16日号