現代中国の外交戦略は「保守派と改革派の対立」といった図式ではとらえられない。著者によれば、理解のカギは近代史にある。
中国人自身も囚われてきたアヘン戦争に始まる「屈辱の近代史」というイメージは、中国の外交戦略の連続性を覆い隠してきた。本書は、「イデオロギーにもとづく歴史観」の乗り越えを目指す近年の中国史研究の成果を参照しつつ、その連続性をたどり直す試みだ。
見いだされた連続性。それは、時に過激なスローガンを掲げつつも、その実一貫して「現行の国際秩序」を黙認し「国内安保」「国力増強」を最重要視し続ける外交姿勢である。だが、その姿勢も1997年のアジア金融危機以降、大きな転換点を迎えたと著者はいう。中国は「責任ある大国」として国際社会に積極的な参入を始める。
GDPは世界第二位になったが、国民一人当たりの所得は日本の9分の1。「経済発展」路線と「大国」の責任のはざまで外交姿勢を模索する中国。本書はその行く末を見定める材料を提供する。
週刊朝日 2012年11月9日号