
朝ドラ「あまちゃん」の舞台となった岩手県を訪ね、思い知った。ヒロインを演じたのんさんへの県民の“愛”は、放送から10年たった今もしっかり息づいている。東日本大震災から12年。復興を期す県民に彼女は何をもたらしたのか。現地で探った。
【写真】漫画家の青木俊直さんが放送時に投稿して話題を呼んだ「あま絵」
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ロケ地だった久慈市にある公共施設「YOMUNOSU(よむのす)」。1階の観光交流センターに足を踏み入れると、白壁に掲げられた二つの絵画が目に入った。この空間だけ、まるで美術館のような独特の緊張感に包まれている。
一つは、P100号(1620×1120ミリ)のキャンバスに読書をする女性を描いた大作「よむのむし」。もう一つは、その半分に満たない大きさだが、リボンのマントをまとった恐竜を力強く描いた「王様のマント」。いずれも、のんさんが描き下ろして市に寄贈した作品だ。
「王様のマント」はデジタル化もされ、300点に分割のうえ、「NFT」(電子証明書)を付けて1点1万円から販売された。すでに完売し、利益は同市へ寄付される。
案内してくれた市商工観光課の米内千織さんは、「のんさんは、久慈市に来る人が増えるようにと原画を寄贈してくれたのです」と説明した。放送終了後、のんさんは何度も久慈市に足を運んでいる。米内さんは「女神みたいなキラキラした存在。彼女が来ると、街が活気づきます。行政には難しいことです」と続けた。
2011年3月11日。三陸沖で発生したマグニチュード9.0の地震は、最大40メートルの津波を起こし、東日本の沿岸地域に大きな被害を与えた。22年3月1日時点で、死者1万9759人、行方不明者2553人、住家被害は全半壊合わせ約40万5千棟に上る。
復興が緒に就いたばかりの12年、「あまちゃん」はクランクインした。当時、久慈市の産業振興部長だった下舘満吉さん(70)は関係者の説得に奔走した。「当初は撮影の受け入れに反対する声もあった。しかし、私は震災だから何もできない、沈んでいていいとは思えなかった。ドラマで暗い雰囲気を払拭して復興につなげたかったのです」と振り返る。