
プールの授業当日、僕は5、6台の照明器具が設置されているのを想像していたのですが、プールサイドに行ってみると、文化祭なんかで使うスポットライトが1台あるだけでした。とてもプール全体を照らす能力はありません。
「ダメだ。危険過ぎる」、真面目なタキ先生が言いました。
「ええやんけー」、不真面目な僕たちが言いました。
「ダメだ!」
「ええやん、プール入りたい!」
この話、誰にしても信じてもらえないのですが、僕たちがプールに入りたいと激しく主張すると、タキ先生がとてつもない方法を考案したのです。
それは、生徒をひとりずつ順番に泳がせ、タキ先生がスポットライトで泳いでいる生徒を照らしながら、プールサイドを一緒に移動していくという方法でした。
「スズキ、行けー」
スズキ君が飛び込むと、タキ先生がスポットライトを当てながらプールサイドを移動していきます。もしもこれでサイレンが鳴っていたら、照明を当てられた生徒は映画『大脱走』の脱走犯そのものです。タキ先生はさしずめ、サーチライトで脱走犯を追跡する刑務官といったところでしょうか。
3、4人が飛び込んだところで、いよいよコダマさんの番がやってきました。
コダマさんは飛び込み台からプールにどぶんと飛び込むと、何を思ったか、真っ暗なプールの中で立ちあがりました。そして、両手を高く上げると、こう叫んだのです。
「私にも光を!」
僕は、コダマさんの心の叫びを聞いたように思いました。