夕日がオレンジ色に染めた陸前高田の海。この絶景も、家庭菜園で取れた野菜のおすそ分けも、街の日常だ
夕日がオレンジ色に染めた陸前高田の海。この絶景も、家庭菜園で取れた野菜のおすそ分けも、街の日常だ

「不採用になった一般社団法人で面接を担当してくれた人に、恥をかく前提で電話をしました。その人が別団体の副理事長もされているとのことで、そちらを受けさせてもらったんです。それが、いま自分が地域おこし協力隊として働く、移住定住の支援団体『高田暮舎』です」

 東日本大震災のあと、ぐっと人口が減った陸前高田市。移住定住のための統括窓口が用意されておらず、情報の集約や移住者数の把握もできていなかった。こうした情報を一本化して移住定住に取り組もうと、「特定非営利活動法人高田暮舎」が設立されたのが2017年。移住定住促進のための相談窓口を設け、移住定住ポータルサイト「高田暮らし」や空き家バンクの運営、移住者コミュニティの形成など、さまざまな活動をしている。

 また、陸前高田市から地域おこし協力隊の活動支援業務を受託しており、松田さんと同じく、地域おこし協力隊として着任した人が複数在籍している。松田さんは「移住定住コンシェルジュ」として、移住を考えている人たちの相談や、実際に現地にきた移住希望者の案内を担当している。

「2020年は70~80件くらい問い合わせがありました。新型コロナウイルスの影響もあり、現地での案内が気軽にできないので、オンラインで町のさまざまな場所を映しながら案内をしました。思いのほか好評でしたね」

 問い合わせが多くなった理由は、リモートワークになり会社に出社しなくてよくなったことと、地域からスカウトが届く移住スカウトサービス「SMOUT(スマウト)」からの流入だという。

 ほとんどは、陸前高田や岩手と関係のない人。なかには、震災のときにボランティアで関わっていたことがある人や、震災直後にできなかったことを震災後10年のタイミングでやりたいと考えている人もいるという。

 松田さん自身のケースでは、Uターンだったこともあり、陸前高田での暮らしについてはおおよそ想像がついていた。移動のために車の購入が必須だとか、家賃は相場より高いといったことを想定できたぶん、岩手に戻るハードルは低かった。

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空き家にもストーリーがある