7月19日に「プロ転向」を表明した羽生結弦
7月19日に「プロ転向」を表明した羽生結弦
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「一人の人間として、自分の心を大切にしたり、守っていくという選択もしていきたい」

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 7月19日、プロ転向を明らかにする会見で羽生結弦が表明した“決意”の中には、そんな言葉があった。

 2014年ソチ、2018年平昌で五輪連覇を果たし、個人最年少で国民栄誉賞を受賞。輝かしい功績を残した羽生は、一挙手一投足が注目されるスター選手として生きてきた。

 一度だけ、羽生に1対1で話を聞いたことがある。連覇を目指す平昌五輪シーズンの開幕前となる2017年8月、短いインタビューをしたのは、当時拠点としていたカナダ・トロントのクリケットクラブだった。打てば響くような賢さ、不慣れなインタビュアーに対する気遣いと同時に深く印象に残ったのは、その表情だった。

 差し向かいで座ると、その面差しは切れ味鋭い日本刀を思わせた。以前から目標にしていた五輪連覇へ向け、自分を研ぎ澄ませる日々を送っていることがうかがわれた。よく「オーラがある」という言葉を聞くが、この時ほどオーラなるものを実感したことはない。

 競技会のリンクへ向かう時は殺気を帯びた侍のようでもあった羽生に変化を感じたのは、2020年12月に行われた全日本選手権の記者会見だった。コロナ禍で拠点にしていたカナダに行くことが叶わず、日本で一人きりの練習を積んで臨んだ全日本で優勝したが、その過程で味わった苦しみを口にしたのだ。一番の目標として取り組んでいた大技について「そもそも4回転アクセルって、跳べるのか」と悩んだといい、他の選手が上達している情報にふれ「一人だけただただ、暗闇の底に落ちていくような感覚があった」と吐露している。

 また、2022年北京五輪ではショートプログラムで氷の穴に乗る不運に見舞われて8位と出遅れ、フリーでは4回転アクセルに挑み認定されたものの転倒、総合4位という結果だった。後日の会見では、フリー前日の練習で足を痛め、痛み止めの注射を打って臨んだことも明かしている。フリー後のミックスゾーンで、「このオリンピックは楽しめたか」と問われた羽生は、即座に「全然楽しくなかったです」と答えている。絶対王者とも呼ばれた羽生が三度目の五輪を戦い終えて口にする言葉としては、切なさが残るものだった。

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「自分の心をないがしろにすることはしたくない」