腫瘍(原発巣)から1センチ以上の「安全域」を含めた部分を切除するのが、基準となる。境界が不明瞭で、がんが想定以上に広がっている可能性があるためだ。横への広がりだけではなく、深さの見極めが重要になる。
切除範囲が舌の半分に満たない「舌部分切除術」であれば、術後の話す、かみくだく、のみ込むといった機能に大きな支障はない。電話など表情や口の動きが相手に見えない会話で早口に話すと、聞き返されることがあるかもしれない程度だ。
一方、舌の半分(舌半側切除術)、もしくはそれ以上を切除する(舌亜全摘術、舌全摘術)場合、一般的に再建手術をおこなう。舌半側切除術と舌亜全摘術はさらに前方約3分の2の「舌可動部」だけを切除する場合と後方約3分の1の「舌根」を含めて切除する場合がある。
再建は腕、太もも、おなかなどから採取した皮膚や皮下脂肪、筋肉に血管をつけた組織を舌に移植する。部分切除だけの場合、手術時間は1時間程度だが、再建する場合は8時間以上かかる。近年血管をつなぐ必要がある再建手術は形成外科医が担うことが多い。
再建してもその部分が舌の機能をもつわけではない。なぜ再建が必要なのか。国立がん研究センター中央病院頭頸部外科長の吉本世一医師は、こう話す。
「舌がんは、首のリンパ節に転移しやすく、特に舌の半分以上を切除する場合は、リンパ節も切除する『頸部郭清術』が必要です。すると、口から首にかけて大きな穴が開き、食べものや雑菌が首にもれてしまうので、穴をふさぐためにも再建が必要なのです」
頸部郭清術は、リンパ節転移が認められない早期でも予防的に実施する場合がある。リンパ節を切除すると、首に傷が残るほか、術後一時的にむくみや肩こりといった合併症が出ることがある。
予防的な頸部郭清術については、明確な基準がなく、医療機関によって差があった。このため、現在は予防郭清についての大規模な比較試験が実施されている。