ANAケータリングサービス 総料理長 清水誠(しみず・まこと)/1962年生まれ。千葉県出身。全日空ホテルでフランス料理レストランシェフ、バンケットシェフを経て2010年入社。機内食の洋食統括部部長を経て18年に総料理長、調理統括室長に就任(撮影/写真映像部・東川哲也)
ANAケータリングサービス 総料理長 清水誠(しみず・まこと)/1962年生まれ。千葉県出身。全日空ホテルでフランス料理レストランシェフ、バンケットシェフを経て2010年入社。機内食の洋食統括部部長を経て18年に総料理長、調理統括室長に就任(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年3月6日号にはANAケータリングサービス 総料理長の清水誠さんが登場した。

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 前菜、メインディッシュ、デザートにサラダと、バラエティー豊かにそろえられているANA機内食の全てのメニューを管理している総料理長だ。ANAケータリングサービスが保有する工場では羽田、成田便合わせて、最大で1日約3万食が作られている。

「ANAの機内食はレストラン以上の美味しさです」。清水さんの自負の裏には、メニュー開発から食材へのこだわり、その供給、製造工程、衛生、温度と徹底した管理がある。

 洋食の世界に入り38年、ソースの味を確かめるためのスプーンは常に持つ。メニューは必ず絵に描いてチームと出来栄えを共有する。

 同社に誘われた当初、機内食はお弁当というイメージがあり、気乗りしなかった。料理の醍醐味とは、湯気のたつ熱々のスフレやパイなど“その瞬間”に作り上げるおいしさをお客様の目の前で提供することだと考えていたからだ。けれど、新しい人生に挑戦しようと思い、飛び込んだ。

 初めて作った機内食は、上司から「味がしない」と酷評された。気圧の高い場所で食べる料理は、通常の味付けだと薄く感じるからだ。そこから、味の研究に没頭。さらに料理を目でも楽しんでもらいたいと、盛り付けも機内で運ぶカート内にセットできる高さの制限を意識しつつメニューを考案している。

 清水さんが開発したハンバーグステーキはANAの顔となった。コロナ禍で機内食のネット販売をしたところ、これまでに185万食も売り上げた。

 味の定評から、外航エアラインの機内食提供も数社、新たに獲得できた。様々な挑戦を推し進めていくことが、会社が進化していくことになると考えている。

 機内食のメニューは季節ごとに変えているが、毎回プレゼンテーションで60種類以上もの料理を披露し、役員や機内食担当者など様々な人に試食してもらいメニュー構成を決めている。さらに、ビーガン意識の高まりから5種類のベジタリアンミールを刷新した。SDGsの観点から調理時に出される残渣で肥料を作り、それを元に作られた野菜を機内食に使っている。

 いつか、機内で揚げたての料理をお客さまに提供できたら素晴らしい、とチャーミングな笑顔で話す。(ライター・米澤伸子)

AERA 2023年3月6日号