
誰を起用したとしても、万人に気にいってもらえる広告やCMなど存在しない。障害児を起用すると、本当にクレームが入るのだろうか。仮に入ったとして、炎上するほどの規模になるのだろうか。
「一度だけの起用で意図の説明もなければ、『なんのために?』と感じる人はいるのかもしれません。企業としてなぜ知的障害児に光を当てるのか。それによって社会をどうしていきたいかなどの考えをていねいに示して、継続的に起用してくだされば、その姿勢や思いは徐々に浸透していくのではないかと考えています。ですが、そうした考えを伝える以前に、知的障害とは触れてはいけないもの。ましてや営利やお金の話とからめるなんてもってのほか、というレッテルを貼られてしまっているように映りました」
当事者の母として感じてきたのは、知的障害者の存在や家族の思いを「見てもらえない」「知ってもらえない」現実だ。内木さん自身は尊君の障害について、どんどん聞いてほしいと思っているし、母としての幸せもある。だが、「ちょっと違う世界の人」として扱われてしまう、見えない壁がそこにある。
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広告やCMに出演することで、知的障害者の存在をもっと身近に感じて親しみを持ってもらう。そして、その姿や障害の実際を知ってもらえれば、壁は徐々に崩れ、もっと暮らしやすい社会につながるのではないか。それが事業の狙いである。
ただ、「起用してもらうこと」が最終目的ではない。当事者側からの一方通行が前提ではないのだが、その前に門前払いされてしまっているのが現実だ。

「消費者」としての貢献
内木さんがもっとも知ってほしいこととして強調するのは、知的障害の当事者やその家族も「消費者」だということ。障害者に優しい企業があれば、その会社の商品やサービスに、今度は消費者として貢献できるという点である。
「モデルに起用してもらって、それで満足しておしまいとは考えていません。例えばテレビCMに障害児を継続的に起用してくださる企業があれば、私たち当事者はその企業や商品のファンになり、積極的に購入を考えると思います。消費者として、その企業を支えることができるのではないかと思うんです。国内の知的障害者は約100万人もいて、その家族を含めるともっと大きな人数になります。さらに、障害者に優しい企業、というイメージが広がれば、数百万人いる知的障害以外の障害当事者や、その家族にも波及してもっと大きな経済効果につながる可能性があると考えています」