では、その「一利」とは何か。梶本医師は、厳しい寒さの冬が長く家にこもりがちになるフィンランドの特殊な生活環境だからこそ生まれた、サウナの効用に言及する。
「家に閉じこもるようになると、汗を出す汗腺が閉じてしまいます。汗腺には体温を調節する重要な役割があり、これは自律神経の働きによって制御されています。汗をかけない極寒の環境ではサウナという外的刺激によって汗腺を開き、自律神経による体温調節機能を回復させてあげる、というプラスの効果はあるのかもしれません」
日本でもコロナ禍で家から一歩も出ない時間が長く続いたり、寒冷地で冬は家に閉じこもり運動をまったくしない人がいるとすれば、サウナが有効となる可能性はあるという。
ただ、厳寒のフィンランドと日本では気候がまったく違う。日本では、満員電車や重い買い物袋を持って歩くだけでも自然に汗腺が開く。汗が流れ出るほどでなくても、活動中は自律神経が汗腺を開いて体温を調節しているのだという。梶本医師によれば、日本で普通に生活している限り、わざわざ酷暑環境を作って汗腺を開く必要はないということだ。
こうした環境でサウナに入るとどうなるか。
「懸命に頑張っている自律神経にさらに負担をかけるので、疲れてしまうだけです。日々のストレスや仕事で疲れている自律神経からすれば、『ひーひー言うとる時に何してくれんねん!』という状況ですよ」
とはいえ、サウナに入った日はストンと眠れている気がする。安眠効果についてはどうなのだろうか。
「すぐ眠れたという声は聞きますが、それは疲れて『寝落ち』しているだけで、寝つきがいいこととは全く異なります。緊張や覚醒をつかさどっているのも自律神経。自律神経が極度に疲れると覚醒を保てなくなり寝落ちしてしまうのです。さらに睡眠リズムを作るのも自律神経ですから、寝落ちした状態では睡眠の質がとても悪く、変な時間に目が覚めたりして疲れを回復させることはできません」
ネットを見ると、「サウナの翌日がだるい」などの投稿が散見されるが、睡眠の質の悪さが原因なのかもしれない。