このように、ガザ地区やレバノンから飛んでくるミサイルは、当然、イスラエル国内での大きな懸念です。このような攻撃に対し、イスラエルはこれまで、テクノロジーと市民訓練という2つの方法を取ってきました。
まず、イスラエルは、アイアンドームという精巧なミサイル防空システムを開発しました。これは遠くから人口密集地域に向けて発射されたミサイルを即座に認識できるシステムです。このシステムでは、標的の地域で事前に警報を鳴らし、高速ミサイルを発射して、攻撃してくるミサイルが地上に落ちる前に破壊します。2011年から配備されたこのシステムの効果が非常に高いことは証明済みで、アイアンドームの迎撃率はいま、なんと約95%です。
現在、イスラエルは、アイアンドームを補完する、レーザーを使用した防空システムを開発中ですが、完成にはあと数年かかると思われます。
イスラエル人、特にガザ地区付近の住民は、残念ながら、このような事態に慣れ、備えています。また、ガザ地区付近の住民は、自宅を東向きに建て、家がガザ地区と反対を向く工夫もしています。さらに、イスラエルでは、新築のアパートや家に、個別のシェルター・ルームを設けることが義務付けられています。このシェルター・ルームは、他の部屋と同じように、寝室やオフィスとしても利用できますが、鉄の壁で保護され、ミサイルが飛んできた場合は安全な場所となります。
また、緊急時は、ミサイルの射程範囲内にいる人々に、アプリやショートメールを通じてメッセージが送られ、 ラジオ、テレビ、インターネット放送でもアナウンスが行われます。これらの警報が鳴ってから、人々が避難するまでには15秒から1分半の時間があります。
残念ながら、多くのイスラエル人にとっては、これが日常茶飯事で、多くの人が、このような緊迫した状況に慣れています。今後も、イスラエル国民は緊急事態に備え続けますが、生活も続けていかなくてはなりません。この中で、アイアンドームのシステムは、とりわけ大きな変化をもたらしました。これによって、イスラエル国民は、緊迫した状況の中でも日常生活を送れるようになったのです。
このように、イスラエルでは時折、一部の国民が厳戒態勢を強いられますが、私は、日本がこのような状況にならないことを願っています。もちろん、紛争を平和的に解決するのに越したことはありませんが、緊急事態に備えておく必要もあるでしょう。
〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。