ちなみに、この年、聖子が披露したのは「Rock’n Rouge」。松任谷由実(呉田軽穂)作曲によるナンバーのひとつだ。
じつはこのあたりにも、聖子が重宝される理由がある。ニューミュージック系のアーティストとコラボしてヒット曲を量産した彼女は「紅白」と非「紅白」的なものをつないだ象徴でもあり、歌謡曲を中心にさまざまなジャンルを融合させた国民的番組を作りたい側としては願ったりかなったりなのだ。
こういうアイドルは他にもいて、冒頭で触れた薬師丸もそう。聖子とは、作家陣がかなりかぶる。また、工藤静香が期待されるのも、中島みゆきとのコラボ曲を歌えるからだろう。他に出場すれば面白そうなのが斉藤由貴で、86年に司会も務めた際、歌ったのは「悲しみよこんにちは」。玉置浩二の作曲だ。
ただ、由貴や静香が登場した80年代後半「紅白」の失速が始まる。
非「紅白」的なものを取り込む工夫は続けられたが、肝心の「紅白」的なものを長年担ってきたアイドルや演歌が衰えたことにより、他の手段によるテコ入れも施されることになる。宮沢りえの入浴パフォーマンス(90年)に、とんねるずのパンツ一丁受信料アピール(91年)、本木雅弘のコンドーム衣装(92年)などだ。話題にはなったが、しょせん、焼け石に水というか、長期低落の流れは変わらなかった。
結局のところ、同時代的なヒット曲が減少するなかで、こうした番組を維持すること自体が困難なのだろう。というのも、メディアアナリストの鈴木祐司はここ数年の「紅白」をデータ的に細かく分析する作業によって、こんな結論を導き出している。
「やはり『紅白』の基本は、その年を代表する突出した曲があるか否かだ。大晦日恒例の国民的イベントではあるものの、デビュー〇×周年などの理由で出る歌手はいらない。単なる送り手の論理に踊らされるほど、視聴者は愚かではない」(22年1月9日 ヤフーニュース)