田中容疑者は法廷で語った以外は事件については触れていないとみられ、判決で犯行動機は「不明」としながらも、
「工藤会ないし石田組が自分たちの利益のために大手ゼネコンである大林組を威迫する意図があったとうかがわれ、反社会的な犯行として厳しい非難に値する」
と結論付けている。
こうして裁判が終わり、田中容疑者は服役することになったが、ゼネコン銃撃事件の発生から田中容疑者の逮捕までは約10年かかっている。「田中容疑者は、犯行計画、拳銃の入手、銃撃の腕、そして証拠をほとんど残さず、すぐには捕まらない。ゼネコン銃撃事件でも王将事件の関連を聞かれたそうだが、黙秘を通した。工藤会屈指のヒットマンと高く評価されていた」(工藤会関係者)
王将事件では、大東さんは腹や胸に計4発撃たれている。
60万部を超すベストセラーとなった「悲しきヒットマン」(徳間書店/1988年)の著者で、「日本で一番、数多くヒットマンの弁護を担当した」という元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏が、王将事件についてこう語る。
「犯行に使った拳銃が発見されていない。田中容疑者の供述もない。証拠が非常に薄く、普通なら逮捕に踏み切れる事件ではありません。暴力団の銃撃事件では、必ずサポートとして、逃走用の車の運転役、バイクを盗む役など複数の組員が動くのが“常識”。そうした共犯者も捕まっていない。暴力団事件でなければ逮捕していないでしょう」
そして、今後の捜査、裁判については、
「警察、検察は田中容疑者の自供が取れないであろうという前提で逮捕に踏み切ったと思います。暴力団事件だけは、物証がそろわなくても、それなりの証拠を積み重ねれば『推認』で有罪がとれます。検察庁は『推認』で裁判所が有罪にしてくれるという手ごたえを得て、逮捕に踏み切ったのでしょう。証拠が十分にそろわず『推認』に頼るのはいかがなものかと、疑問に思います」。
一方で、捜査関係者はこう自信を見せる。
「報道されている証拠、供述関係以上にきちんと立証できています。裁判ではしっかりとした捜査であったことを証明できるはずです」
(AERA dot.編集部・今西憲之)