写真はイメージ (c)GettyImages
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 英語は日本人にとって習得の難しい言語である。英語力に悩む人の中には、「日本語は英語と遠い言語であり、特殊なもの」だと考えている人も少なくないだろう。だがその「日本語特殊言語説」を、自動翻訳研究の第一人者である隅田英一郎氏が一刀両断。一方で日本語のアドバンテージについて新たな見解を述べる。『AI翻訳革命』(朝日新聞出版)から一部抜粋して紹介する。

【グラフ】外国人が日本語を習得するまでに何時間かかる?

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日本語は「特別」ではない

 日本語は「特別」な言語だと言う日本人が時々いる。

・非日本語でよく知られている英語と異なる点が多いためかもしれない。
・外国人の話す日本語の微妙な違いが母語話者であるが故に気になるからかもしれない。
・日本が優れていると思いたいのかもしれない。

 さて、世界の言語の数はいくつあるのだろうか? 言語のカタログEthnologue(※注1)によれば現在使用されている言語は驚くほど多く7151にのぼる。その中で、日本語は「特別」なのだろうか? 話者数という観点では7000以上の言語の中で上から13番目(※注2)の大言語であって、「特別」とは逆の「ありふれた」言語となる。

 主語(S)と動詞(V)と目的語(O)の順序で決まる基本文型の観点でも、「特別」とは逆の「ありふれた」言語となる。英語は「I love you」の語順なので基本文型はSVOで、日本語は「私は(I) あなたを(you) 愛する(love)」の語順なので基本文型はSOVである。世界の言語を基本文型で分類すると、SOVに属する言語が最多で41%にのぼる。「特別」とは逆の「ありふれた」言語となる。

 基本文型が日本語と韓国語のように同じ言語間の翻訳は、日本語と英語のようにそうでない場合の翻訳に比べ、より簡単である。日本を起点にSOV言語をたどっていくと、東洋と西洋の間を結ぶシルクロード(海路も陸路も)の大部分をカバーできる。日本語を起点にSOV言語間の自動翻訳を構築していけば、英語起点や中国語起点より高精度になり、ビジネス上有利になりうる。SOV経済圏という言語オタク的ビジョンだ。

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世界における日本語のポジションは?