河崎 「(苦痛に耐えながら、一通を見上げる)」

     と、一通は何か棒状の物を持って、河崎を見下ろしていた。

河崎 「(苦痛に歪み)」
一通 「(静かに見下ろし)」
河崎 「(と、懐から何かを抜いた!!)」

     次の瞬間、一通は持っていた棒状の物を、思い切り河崎の頭に振り下ろす。 

○どこか(外)

     綾子が遠くを見つめている。

綾子 「ラクダラクダラクダ…」

     綾子は呟きながら、レンタルボックスのようなところに向かい、歩いていく。

○元の一室

綾子 「ラクダラクダラクダ…」

     呟きながら綾子が中に入ってくる。

綾子 「…」

     血まみれになった河崎の遺体。その河崎の手には植木鋏。
     傍らにいる一通は自分の持っていた棒状の何かを捨て、
     河崎が持っていた、その植木鋏を手に取る。

一通 「(見て)…いろんな武器があるもんだ」
綾子 「…あ、海の匂いや」
一通 「(植木鋏をいじりながら)しねーよ」
綾子 「え、するて」
一通 「知らねーし、海の匂い。海、見たことねーし」
綾子 「え?自分、見たことないの?海」
一通 「ないよ」
綾子 「自分、山育ちか?」
一通 「いや。海育ち」
綾子 「なんや、それ」
一通 「海育ち…らしい」
綾子 「は?」
一通 「家のすぐ近くに、海があった、らしい」
綾子 「自分多いな、『らしい』」
一通 「覚えてねーんだよ、なーんも」
綾子 「…」

     一通は、植木鋏を一心にいじっている。

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