一通 「何言ってんの。ビールもワインもあるよ」
河崎 「じゃあ…どうすっかな」
一通 「(真似して)どうすっかな。はい、いいよ、言って」
河崎 「じゃあビールを」
一通 「いいねぇ」

     と、冷蔵庫の中から缶ビールを二つ出し、一つを河崎に渡す一通。

一通 「何に乾杯する?ね、何に乾杯しよっか?」
河崎 「いや別に」
一通 「口癖?」
河崎 「え?」
一通 「いや別にって、口癖でしょ?」
河崎 「あ~」
一通 「うん」
河崎 「別に」
一通 「ガク。(と、滑らせた肘を指し)これ見てこれ見て。ガクー(と、また肘を落とす)。ね、もう『別に』禁止。『別に』禁止令、発令(と、また爆笑)」

     河崎は笑えず、一口だけビールを飲む。

一通 「今のはヤバイ。禁止令はまだしも、発令はヤバイ。発令は超ヤバイ。(河崎に)ね、もっと面白いこと言ってあげよっか。ね」
河崎 「あ、はい」
一通 「ね」
河崎 「はい」
一通 「面白いこと言われたい?ね」
河崎 「はい」
一通 「ね」
河崎 「はい」
一通 「言われたいでしょ?ね」
河崎 「はい」
一通 「ね」
河崎 「はい」
一通 「あのね、道端に犬のウンコが落ちてました。それを手で拾って言いました。『ああ踏まなくて良かった』(と、爆笑)」
河崎 「…」

     爆笑している一通。…と、突然、

一通 「(激高)笑えよ!!」

     瞬間、ビクッとする河崎。
     静まりかえる二人。
     ……と、

一通 「…うそ。(嬉しそうに)今びっくりしたでしょ?ね、今びっくりしたでしょ?」

     この時、河崎の様子がおかしくなる。
     腹を押さえ、苦悶の表情になる。

一通 「…あら?どした?」
河崎 「…(苦痛に歪み)腹が…」
一通 「腹?どした?痛い?」
河崎 「(痛くて)グッ」

     河崎、腹を抱えたまま、ベッドから崩れ落ちる。
     …テーブルの上には、河崎が一口だけ飲んだ缶ビール。

河崎 「(増していく痛みに必死に耐え)」

     河崎、腹を押さえながら、懐に手を入れる。

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