河崎 「あの、お客さんは?」
一通 「三宅くん。一択」
河崎 「そうじゃなくて、名前。お客さんの」
一通 「………教えない」
河崎 「そうですか」
一通 「うわ、早いじゃん、引き際早いじゃん、もう少し食いついてよ。食いつくって言うんでしょ、ね、今の若い子たちって、業界用語で、ね、食いつき悪りぃいよーとかって、ね」
河崎 「はあ…」
一通 「ね」
河崎 「はい」
一通 「ね」
河崎 「はい」
一通 「ね」
河崎 「…」
一通 「ね」
河崎 「…」
一通 「ね」
河崎 「…はい……あの、しないんですか?」
一通 「え何を?するよ。勿論するけどさ、そりゃ。こうやってお話とかもしたいじゃん」
河崎 「一時間ですよ」
一通 「いいんだよ、タダアキは、カワサキタダアキはそんなこと気にしなくても」
河崎 「しなくても金はもらいますよ。俺としては、」
一通 「え、待って。俺って言うんだ。ね。自分のこと、俺って言うんだ」
河崎 「…」
一通 「……男の子だね。で、何?俺としては何?」
河崎 「…」
一通 「何~また堅くなってんじゃない?どうした。どうしたどうした」
河崎 「いや別に」
一通 「堅いよ。なんか飲む?」
河崎 「あ、はい。じゃあ…」
一通 「いいよ、なんでも言ってごらん。水しかないけど(と、突然笑う)」
河崎 「…」
一通 「(常軌を逸したように笑う)」
河崎 「…」

     狂気のように笑う一通。
     …と、河崎、懐に手を入れる。

○どこか(外)

     遠くを見つめ、立っている少女、綾子。

綾子 「ラクダラクダラクダラクダラクダラクダ…」

     遠くを見つめながら、小さく「ラクダ」を繰り返し呟いている少女。

○元の一室

     まだ笑っている一通。
     河崎の手は懐に。

一通 「あ~おっかしい、今のウィットおっかしい(と、笑い止む)」
河崎 「…(懐から何事もなくそっと手を抜く)」
一通 「(河崎に)ね、楽しい?今のウィット楽しい?」
河崎 「あ、はい。あの、でも水でいいです」

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