だが、転職して4カ月。鈴木さんは戸惑っていた。
本部からの指示で、クリスマス期間の販促キャンペーンは、厳しい売り上げ目標が設定されている。街路のイルミネーション目当てで人通りが多くなるこの時期は、店頭に商品を並べ、バイトも総動員する必要がある。鈴木さんは、バイトに「シフトに入るよう」説得していた。だが、バイトたちは猛反発した。
「外は寒いし酔っ払いも多い。女の子たちがかわいそうです。鈴木さんは、僕たちの都合も聞いてくれない。帰省もするしサークルの行事もある。そんなに『会社の方針だ』と言うなら、社員だけで働けばいいじゃないですか。僕たちは単なるバイトですから」
これに対して、鈴木さんはいら立ちを覚えた。
「チームのメンバーとしての自覚がない。ここのバイトは信用できない」
そんな心中を察してか、バイトたちは次々と辞めていった。
鈴木さんは人員補充のために求人広告を出したが、なぜか応募がぱったりと来なくなった。理由を探ると、近隣の住宅や学校で、店の悪評が立っていることがわかった。辞めたバイトが口コミやSNSで鈴木さんを批判していたのだ。
シフトの埋まらない時間帯は、店長である鈴木さん自らが店頭に立たざるを得なくなった。バイトに見放され、サービス残業や休日返上という“スタンドプレー”を余儀なくされ、疲弊する日々が続いた。
■失った自信が引き起こした「オウンゴール」
そんな中、バイトとして残ってくれていた女子学生からこんな相談を受けた。
「同じ店舗のバイトの男子2人と三角関係になっている」
鈴木さんは考えた。相談を通じて彼女の信頼を得れば、その友達が求人に応募してくれるかもしれない。閉塞(へいそく)した事態を打開するチャンスに思えた。
女子学生はこう言った。
「彼との愛情は冷めた。なのに、付きまとわれている。別れたいので相談にのってほしい」
彼女は、彼氏に強引に誘われてこの店舗で一緒にバイトを始めたことは鈴木さんも知っていた。だが、関係がこじれているとは知らなかった。さらに、彼女はここで働く別の男子学生と新たにお付き合いを始めたことも教えてくれた。