サッカーW杯カタール大会で日本代表は予選リーグを突破、その躍進に日本中が沸いた。チームを率いる森保一監督の采配は、ときに批判と称賛が入りまじり、組織を統率するリーダーの重責を実感させられた。ビジネスの世界でも、組織をまとめ上げ成果を出すことはこの上ない達成感を得られるが、反面、リーダーの意気込みが空回りすれば、メンバーから反発を受けることもある。元大手人材紹介会社教育研修部長で「転職定着マイスター」として活動する川野智己氏が、リーダーとして転職するもメンバーから反発と理不尽な暴力を受け退職に追い込まれた事例を紹介する。
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■やらされている感と疎外感
鈴木優太郎さん(28=仮名)は、ゲーム開発をするソフトウエア会社に新卒で就職した。熱狂的なサッカーファンであることから、人気サッカーゲームを開発していたこの会社で働きたいと思ったからだ。
ゲーム開発では、ゲームのタイトル(商品)ごとにチームが組まれ、統括するプロデューサー、デザイナーやシナリオライターなどさまざまな職種の社員が集められる。鈴木さんが担うプログラマーは、仕様変更やバグの発生があれば、深夜勤務をしても対応を迫られる“弱い立場”だった。プロデューサーは「販売元の要求だから」「会社の方針だから」と有無を言わさず無理難題を押し付ける反面、現場の意見には聞く耳も持たない。そんな状況に、鈴木さんはとことん嫌気がさしていた。
「統括責任者が全ての責任を負うべきです。私たち若手社員に責任を押し付けないでください」
鈴木さんは、上司にこう意見するまでになっていた。
サッカーのようにメンバー全員が一丸となる環境で働きたい――鈴木さんは、新しい環境を求めて転職活動を始めた。
■メンバーからの思いもよらない猛反発
鈴木さんが転職先として選んだのは、大手のファストフード。店長として正社員採用された。実は、大学生のころ、鈴木さんはこの企業の店舗でバイトリーダーとして働いた経験がある。今度は社員として舞い戻り、いきいきとした職場で再びリーダーシップを発揮できると思うとワクワクした。