鈴木さんは、こうアドバイスした。
「彼とはシフトを一緒にさせないようにするよ。君は、彼からの接触を完全に無視しなさい。正直な心情を口にすれば彼は逆上する。彼も自分の置かれた立場を察するはずだ」
彼女がアドバイス通りに行動したところ、彼からは一切連絡が来なくなったという。
全てがうまくいったはずだった。
しかし、センシティブな男女の問題に安易に介入した代償は大きかった。
鈴木さんは、深夜の閉店作業を終えて外に出た直後に、隠れていた男から木刀で殴られ左肩を骨折させられた。犯人は、例の彼氏であり、「鈴木さんが恋敵に肩入れしている」と邪推したのが動機だった。
バイトに迎合し、こびを売るために近づき危険な橋を渡る。鈴木さんは、もはや店長としての本来の役割すら見失っていた。
その後、会社からは、「騒動を起こした」と退職を迫られた。上司であるスーパーバイザーは、鈴木さんにこう語った。
「店長は責任者として、その全ての責任を負うものだ」
前職のゲーム会社で、鈴木さん自身が口にしたセリフでもあった。鈴木さんは静かに退職届を出して去っていった。
■メンバーを巻き込み成果を挙げる2つの方法
以上が、転職先を辞めざるを得なかった鈴木さんの事例である。
鈴木さんのミスはいくつもあるが、まずは、メンバーであるバイトを「信用できない」と即決したことである。バイトたちが感じている「やらされ感がある」「話を聞いてくれない」という思いは、いずれも鈴木さん自身が前職で感じていた不満だ。そう考えると、彼らもかつての鈴木さん同様に、実はチームとして一丸となった店舗でいきいきと働きたかったと考えることもできたはずだ。その場合、鈴木さんが取るべき手段は2つあった。
(1)目標を自分の言葉で話す
本部から降りてきた達成目標を“会社の方針”とするのではなく、「この店を街のにぎわいの拠点にしたい」というように、店長の熱い思いとして語ることだ。自分たちの目標でもあると彼らが納得すれば、「疎外感」や「やらされ感」も薄れ、自ら参画してくれる。鈴木さんが経験した学生時代のバイトリーダーは、あくまでも“友達”の延長にすぎない。店長であるリーダーが熱い思いを語れないのであれば、過去の成功体験が通用しなかったのも当然である。