「ママ、ロシアが戦争をやめないのは、僕のせいなの?」。ウクライナ人の小学生、アルチョム君(8)が、こう母親に尋ねた。ロシアが砲撃を続けるウクライナ北東部ハルキウ州。親子は爆撃を避けるため、自宅アパートの地下室で暮らし続けている。なぜ地上に出られないのか。学校へ通えないのはなぜか。クリスマスを前に、子供の苦しみに向き合う母親らを訪ね、話を聞いた。(岡野直=ウクライナ・ハルキウ市)
日本のクリスマスのように親が子にプレゼントをする「聖ニコライの日」の12月18日。ハルキウ近郊に住むキリスト教徒の母親マリーナさん(36)とアルチョム君は次のような会話を交わした。
アルチョム君「僕は『戦争が終わりますように』と神様にお祈りしたんだ。でも聞いてもらえないのはなぜ?」
マリーナさん「神様は、悪い人を罰してくださるのよ」
アルチョム君「僕は、悪い人なの。僕が罰せられているのかな?」
母親は、ロシア人のことを「悪い人」と言ったのだが、アルチョム君は自分のことを言われたと勘違いしたようだ。
筆者が母子の住み続ける地下室を訪ねたのは、翌19日。マリーナさんは息子に「試練はいつか終わる。必ず良くなるわ」と説得したのだという。地下室でそう語りながら、マリーナさんは泣き崩れた。隣に立っていたウクライナ人女性が彼女を抱きしめた。
マリーナさんは気を取り直し、地下室で、息子のために作った手作りの「クリスマスツリー」を見せてくれた。紙に緑色の枝の絵をはった簡素なものだ。「子供のために、楽しみを見つけなければなりません」
空襲警報は毎日鳴る。このアパートが直接、攻撃の被害を受けたのは2月、4月、5月の計3回。現在も窓ガラスの多くが割れたままで、板で覆っている。マリーナさんは「地上に出るのは買い物の時など、なるべく減らしています。毎日、空襲警報が鳴り、砲撃音も聞こえ、ストレスになるからです」と話す。