地下室は10余りの部屋からなる広大さ。ロシアが大規模侵攻を始めた2月以降、ここに、アパート住民120人の4分の1が住み続ける。子供もいるため、10畳ほどの部屋を「クラスルーム」にした。小学生が集まり、各自がスマホを手に持ち、遠隔授業を受ける。「地下生活者」のまとめ役のマリーナさんは大きな机を中央に置き、Wifiも設置した。算数や国語など国内外に住むウクライナ人教師が授業をしてくれる。
年金生活者ラリーサさん(64)一家は、ふだんはこのアパートの地上部分に住み、孫娘(10)が「地下教室」に通う。ロシアとの国境からわずか40キロのハルキウ市では、すべての学校が閉鎖され、オンラインで授業を受ける決まりだからだ。
しかし、ラリーサさんも、ロシアがウクライナ全土にミサイル70発を発射した今月16日以降は、地下に降りざるをえなかった。地下の「自室」は3畳ほど。地面にマットレスが一つ、他に小さなタンスがありトイレットペーパー1個など、必要最小限のものが置いてある。孫娘をマットレスに寝かせ、大人3人は地面にすわって、そこにいた2日間、ほとんど眠れなかった。「停電のせいで真っ暗闇。通信も途絶えました。でも一番大切なのは子供。孫のためなら我慢します」とラリーサさんは話した。
地下生活者たちの暮らしを支えているのが、ボランティア団体。この日、地下室を訪れた「ボランティア68」の代表ガリーナ・ハルラモーワさん(49)を、地下生活者たちが囲んだ。ガリーナさんは定期的にパン、医薬品などを運んでいる。
もともと障がい者らの支援活動をしていた彼女は、ロシアの本格侵攻が始まった2月24日、数本の電話を受けた。
ロシアの戦闘機が上空から攻撃してくる。市民の電話は「家に水の備蓄がない。助けてほしい」という支援の要請だった。数日後、電話は100本を超えた。ガリーナさんは3月半ば、支援物資の倉庫兼オフィスとして、市立第68小学校を借りた。その名にちなみ、「ボランティア68」を結成した。