もう一つ、サラリーキャップなどの導入が不要だと感じる理由が現行の登録選手数の上限とFA制度にある。NPBは一軍の公式戦に出場できる選手は70人までと決められており、アメリカのようにマイナーリーグで多くの選手を抱えておくこともできない。ソフトバンクが4軍制を導入し、多くの育成選手を抱えたとしても一軍の戦力へと引き上げることは簡単ではないのだ。

 またFA制度についてもMLBのように一定年数を超えて契約が切れた選手が全員FAになるわけではなく、他球団との交渉のためには宣言が必要になっており、毎年その権利を行使する選手は少数派である。さらにトップレベルの選手はMLB移籍を目指すことが多く、本当の意味での大物選手を獲得できるケースは少ない。

 本当に日米問わず超大物選手を獲得しようとするのであれば、MLB球団を超えるような契約を提示することが必要となるが、現在の収益構造を考えるとそれは現実的ではないだろう。いくらソフトバンクや巨人が選手の獲得や育成に投資しても、突き抜けづらいという構造が既に出来上がっているというのが現状なのだ。

 戦力均衡化という意味でサラリーキャップのような制度を導入する必要はないと考えられるが、一方でMLBとの格差を考えると現行の制度が手放しで称賛できるものではないのもまた事実だ。

 球界再編騒動があった後の2007年にはパ・リーグ6球団が出資してパシフィックリーグマーケティングを立ち上げ、以前とは比べものにならないほどパ・リーグ主催の試合に観客が詰めかけるようになったが、NPB12球団で足並みをそろえてプロ野球界全体の価値を高めるような動きは驚くほど少ない。

 また長年の課題であるプロとアマチュアの間にある溝もなかなか埋まることなく2020年代を迎えている。1球団、1リーグなど小さな利益だけでなく、野球界全体として市場規模を大きくし、それを還元できる仕組みを作るための取り組みがより活発になることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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