年明け間もない1月31日、長年、東京・渋谷のランドマークとなってきた東急百貨店本店の営業が終了する。また、昨年11月には赤字続きだったそごう・西武百貨店の米投資ファンドへの売却が発表された。いつから百貨店はこんな姿になってしまったのか……。昭和の時代、百貨店は輝いていた。休日になると家族で買い物に出かけ、食事をし、屋上の遊園地で遊んだ。ところが、百貨店全体の売上高はバブル期の1991年に約9.7兆円に達して以降、長期低落傾向に歯止めがかからない。売上高はピーク時の半分以下になった。そんななか、百貨店各社は生き残り戦略として「外商」「場所貸し」に力を入れる。その背景に浮かび上がるのは、貧しくなっていく日本人の姿だ。
【貴重写真】路面電車が!1963年、銀座三越屋上から撮影。百貨店がにぎわっていた古き良き昭和の時代だ。
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なぜ、百貨店の経営環境は厳しいのか?
2021年7月、報告書を提出した経済産業省「百貨店研究会」がその根本原因を明らかにしている。
消費者1万人に対して行われた調査によると、百貨店の利用者は主に世帯年収500万~2000万円の中・高所得層である。一方、百貨店を利用しない人の多くは世帯年収500万円未満だ。
百貨店にとって深刻なのは回答者のピークが世帯年収250万~500万円未満であることだ。つまり、これまで日常的に百貨店で買い物ができるだけの所得を得ていた中間層の厚みがすっかり薄くなっている。
そのため、近年、百貨店ビジネスは様変わりしている。
「一時は若者を取り込もうと頑張っていた百貨店もありましたが、最近はもっぱら富裕層向けになりました」
百貨店業界に詳しい立教大学経営学部の高岡美佳教授は、そう語る。
中間層が薄くなったぶん、百貨店ビジネスは富裕層向けにシフトしている。その象徴といえるのが顧客のもとに出向いて商品を販売する「外商」である。
コロナ前、中国からの訪日客をメインにインバウンド旋風が吹くと、百貨店はひと息入れることができた。ところが、コロナ禍で訪日客が消えると、三越伊勢丹ホールディングス(HD)を中心に、外商に猛烈に力を入れる百貨店が出てきた。