実子の次女は小春さんの1歳上で、一番の理解者だった。次女に「実は納豆嫌いなんだ」と打ち明けた。次女はそれを里母に話そうとしたが、小春さんはバレたくなかったので「え?!言っちゃうの?!!」と止めようとした。

 しかし、そのことが里母の耳に入ると里母は、「嫌いなら食べる必要ないよ」と言ってくれた。1年半も嫌いなものを食べ続けていた事実を知り、驚いている里母に、「でも納豆巻きは大丈夫」と言い訳をした。
 
 ここでも運悪く、それを知らない里父は、子どもたちの昼食のために納豆巻きを3パックも買ってきた。
 
「小春、本当に好きならいいけど、今言わないと、父ちゃんずっと納豆巻き喜ぶかなぁと思って買ってきちゃうぞ。どうする?」と里母に言われ、勇気を振り絞ってとうとう、「納豆巻きも嫌い」と言えた。今では家族の笑い話だ。
 
 こうして、乳児院にいた時には言い出せなかった自分の意思を、里親家庭のもとで少しずつ言えるようになっていった。
 
 いま、こうして里子として実名と顔を出して発信することができるようになった小春さんだが、まだ十分ではないという。
 
「フランス革命では、声を上げた市民が選挙権を獲得しました。でも獲得できたのは男性たちだけ。女性や子どもの権利は認められませんでした。それに例えると、私は権利を獲得した男性たちの立場になるかなと思いました。他の里子たちは自分の願いを聞いてもらえているのだろうか。自分の育ちたい場所を選べているのだろうか。一度社会的養護に入ると、子どもの願いは後回しになっている現状があります。だから、その子たちのためにも、かつての自分を救う気持ちで自分にできることをしたいと思っています」
 
 他の里子が発言する権利も求めて、声を上げ続けるつもりだ。
 
(AERA dot.編集部 岩下明日香)