さらに、運転中に怒りが湧きやすい別の理由として、車という乗り物の「密室性」がある。
それぞれが個室にいるような状況で、相手の車内が見えずどんな人かや様子が確認できないことがある。その人がなぜこんな運転をしているのか、想像力が働きづらい。
「例えば、電車内でリュックが邪魔になっている人がいてイラっとしても、いきなりその人に何らかの行動に出ることはないと思います。もし邪魔になっていたのがたまたまのうっかりで、その人が気付いておわびをするしぐさをすれば、怒りは落ち着きますよね。それ以外に不快な行動をしている乗客がいても、その姿が見えますから何か事情があるのかなと考えたり、ここで怒って何かしたらまずいかなと躊躇したりして、いきなり行動はしないと思います。その点、車は状況が違います。周囲から、車に乗ると人が変わる、などと言われる方が実際にいますが、よろいをまとい自分が大きくなったような気持ちになってしまう人もいます。顔も名前もわからないネット空間で、攻撃性が増すことと似ているかもしれません」(戸田さん)
警察庁の調査では、加害者側の理由がただの思い込みだったケースも目立つことが分かったが、確かに「顔や姿が見えない」ことが一因なのかもしれない。
調査では、加害者は男性が目立ち、若い世代が多いとの結果も出た。
これについて戸田さんは、「男性は運転の能力を誇示したい傾向が強いのかもしれません。一方の女性は、車に対しては使い勝手や安全性を重視する傾向が強く、危険な運転にはつながりにくいのではないか」と推測する。ただ、年代に関しては、どの年代でも怒りに任せてあおり運転をしてしまう危険があると指摘する。
協会が19年に行った20~60代の男女420人に対するアンケートでは、「運転中にイライラした経験がある」と回答した人が90%を超えた。一度も怒りを感じたことがないドライバーはそうそういないだろう。