日本銀行の次期総裁は想定外の人物だった。10日午後、経済学者の植田和男氏(71)起用方針の人事案は驚きをもって報じられ、市場も反応。翌日の新聞朝刊各紙は植田氏のこれまでの発言や業績の紹介に紙面が割かれた。しかし、なぜ、植田氏だったのか。そして、異次元の緩和策はどのようにして出口に向かうのか。サプライズ人事を読み解いた。(朝日新聞編集委員 原真人)
■消えた「雨宮総裁」案
岸田文雄政権が日本銀行の次期総裁に東大名誉教授で共立女子大教授の植田和男氏(71)を起用しようとしている人事案が10日、明らかになり、政官界や経済界に驚きが広がった。
戦後初めて学者出身の日銀総裁が誕生するという珍しさからだけではない。サプライズとなったのは、多くの人が新総裁に別の名を想定していたからだ。
今月6日、日本経済新聞が「日銀総裁雨宮氏に打診」という特ダネ記事を朝刊1面で報じた。雨宮正佳氏は日銀の現職副総裁。もともと次期総裁の大本命と見られていた。
もう一人の本命候補であった中曽宏・前副総裁(現・大和総研理事長)は最近、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の民間版、ビジネス諮問委員会(ABAC)の金融作業部会の議長就任を明らかにした。これも政府の任命だったことから、中曽氏の日銀総裁就任の芽はほぼ消え、雨宮氏の起用がいよいよ強まったと受け止められた。
ただ一方で、昨秋あたりから雨宮氏が周囲に「絶対に総裁にならない」と語っているという話も関係者に伝わっていた。本人はこんな説明をしていた。
「私のような量的緩和からマイナス金利、イールドカーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)までやってきた者が次の総裁をやらないほうがいい」
これをどう解釈すべきか。私は、これも「戦術家」雨宮氏一流の、総裁人事に向けた一種の作法にすぎないと受け止めていた。だが、そうではなかったようだ。
■異次元緩和の「総合プロデューサー」
マイナス金利やYCCは、「異次元緩和」の主要メニューである。
異次元緩和は黒田総裁の指揮下で始まったが、その具体策の制度設計は金融政策を立案する日銀企画局が担ってきた。その司令塔が企画担当理事や副総裁を務めてきた雨宮氏だった。