また、クロちゃんがSNSでバッシングされてもひるまなかったのは、一方的に叩かれて傷つくだけでは損をすると思っていたからだ。この状況で得をするにはどうすればいいのか。嫌われて注目されているという状況を逆手に取れば、いつかひっくり返って好かれるかもしれない。そうやって彼はSNSの批判を受け流し、そこから新たなファン層を開拓してきた。

 クロちゃんはバラエティ番組でも台本を読み込み、そこに書かれている通りに行動する。なぜなら、そうすればスベっても他人のせいにできるからだ。彼はどんなことをしても絶対に自分が悪いとは認めず、人のせいにする。これはただの責任逃れのように見えるが、1人で罪悪感を感じて問題を抱え込むよりも、健全な生き方であるとも言える。

 私は、取材で何度かクロちゃん本人に会って話をうかがったこともある。そのときの印象としては、芸人というよりも芸能事務所のマネージャーやプロデューサーに近い感覚を持っている人だなと感じた。

 自分がどう思うか、どうしたいかということよりも、自分のキャラクターがどう見られているのか、どういうふうに思われているのか、ということを一歩引いた目で眺めているようなところがある。クロちゃんという与えられた役柄を淡々と演じているような気がした。

 いわゆる「お笑い芸人」という人種は、人前に出ているときとそうではないときの差が激しい人が多いものだが、クロちゃんはほとんど変化がない。裏表がないというより、すべてが裏のようでもあり、すべてが表のようでもある。

 異形のモンスター芸人がたどり着いた独特の悟りの境地は、普通の人間には容易に到達できるものではない。しかし、部分的に参考にすることはできる。傷つきやすい現代人にはクロちゃんという劇薬が必要なのかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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