さらに米国は、この気球がベトナムに近い中国・海南島から打ち上げられ、グアム周辺に到達したあと、北上したと発表した。つまり、当初から気球の動きを正確につかんでいたことになる。

「米国はこの気球がどこから飛び立ったのか、偵察衛星で中国の基地をモニタリングして、知っていたと思われます。宇宙から見れば気球は目立ちますから」

 高高度気球の飛行コースは地球大気シミュレーターを使えば、かなり正確に予測できる。なので、米国領空に到達するときを狙って網を張っていればいいわけだ。

 米国防総省は2021年に偵察用気球などを発見し、特定するための組織、AOIMSG(Airborne Object Identification and Management Synchronization Group)を設立し、監視体制を強化していた。

 ただ、以前取材した防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室の高橋杉雄室長によると、今回の気球の撃墜は「完全にイレギュラーなイベントだった」ようだ。

「ことの始まりは明らかにSNSでしたから。謎の気球が飛んでいることがSNSで話題になり、それを大手テレビ局が追い始めて騒ぎになった。そこで国防総省が『この気球についてはずっと追尾しているので、安心してください』と、公式に発表した。なので、騒ぎが起こらなければ、そのまま米国本土を通過させていた可能性が高い」(高橋室長)

 気球の撃墜後、国防総省は中国が数年にわたり、気球によって大規模な偵察活動を行ってきたことを明らかにした。つまり、今回の事件が起きるまで米国は中国の偵察用気球を文字どおり、泳がせてきたわけだ。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

※記事の後編<<古くて斬新な「軍事用気球」の実態 ぶつける、自爆させる…偵察気球を攻撃するための米国の本気度>>に続く

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