韓国在住の日本人Sさん(40)は解禁後の梨泰院の様子をこういう。
「私も梨泰院に行ったんですが、多くの店の前に入店待ちの列。平日の夜だというのになかなか店に入れなかったんです」
前出のKさんも振り返る。
「いや、すごかった。すごい人が毎日、店を埋めてくれた。これで借金が返せると思った経営者は多かったはず」
しかしこの弾けぶりが、ハロウィーンの雑踏事故につながってしまう。
坂をのぼり、ハミルトンホテルの裏手の道を歩く。暗い。閉まっている店は8割以上? マイナス10度を下まわる寒さが骨に響く。
昨年末、梨泰院の街の夜は暗い。ぽつんとネオンが光るパブに入ってみた。客は一人もいない。マネジャーにそれとなく聞いてみる。
「ハロウィーン以来、ばったり客足が途絶えました。年が明ければ……という経営者もいますが」
梨泰院に来る前、在住する日本人の何人かに話を聞いていた。
「梨泰院は大人数で行って騒ぐ場所。梨泰院っていうと、『怖い』とか『気味が悪い』っていうメンバーが必ず出てくるから、最初から梨泰院の店に集まるっていう選択肢を外します」
と口をそろえる。事故後、韓国のシニア世代は声にはしないものの、「あんな場所に行くからだ」という思いがあった。梨泰院に集まっていた10代、20代の若者たちは、親世代の視線に敏感に反応していた。
パブの近くでの焼き肉店が開いていた。入ってみた。ここも客がひとりもいない。店長のZさん(38)に話を聞くと、
「ハロウィーンの事故から10日~2週間が経ったころ、梨泰院の店は一斉に開いたんです。事故の前はすごく儲かっていましたから。でも客がまったくこない。1週間ほど開けて、多くの店がまた閉めました。従業員の給料や光熱費なんかもかかるから。うちは8席だから、従業員を雇わなくてもなんとかちょっとでも収益になるかと思って。でもだめです。結局、全部コロナなんです」
と渋い表情で語り、こう続けた。