早稲田大学理工学術院の柴山知也教授(海岸工学・沿岸域防災)によると、防潮堤の内側にたまった雨水の排出、「内水排除」は防潮堤整備の際に常に付きまとう課題だという。

「大都市圏では大掛かりなポンプ場を設けていますが、人口が少なくエリアの広い東北沿岸に逐一整備するのは難しい。排水口を広げたり増やしたりするのも、高潮や津波の際の逆流リスクが増すので良い解決策ではありません。津波と豪雨、どちらに重きを置くかの問題でもあります。どこにでも適用できる答えはないんです」

 近年は、雨の降り方が変わったと指摘される。局所的な集中豪雨が増え、十分な排水機能を備えるはずの大都市部でも排水が追い付かないケースが現れ始めた。東北の防潮堤の多くは「10年に1度の大雨」を想定して排水システムをつくっているが、今後はこれを上回る雨が頻発する可能性もある。

 柴山教授はこう指摘する。

「同じ雨量でも、短時間に集中すれば排水が追い付かなくなります。局所的な内水氾濫は今後さらに増えるでしょう。対策が難しいとはいえ、地域住民は自分たちが住む土地のどこが危ないのか、どのくらいの雨が降るとどこに水がたまるのかよくわかっています。行政がその声を丁寧に吸い上げて、必要な手を打っていくのが、シンプルですが、最も有効な対策です」

 住民がリスクを訴えてきた蛤浜のケースは、防ぐことができた災害だと思えてならない。蛤浜の区長、亀山貴一さん(38)は、取材の最後にこんな言葉を漏らした。

「復興事業では蛤浜のような小さな集落にも莫大なお金を投じてくださっていて、そのことにはとても感謝しています。だからこそ、防潮堤の是非や整備計画の際には住民の声をもっと聞いてほしかったと思っています」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年3月16日号より抜粋

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