AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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カンヌ国際映画祭で「パラサイト 半地下の家族」とパルムドールを争い、審査員賞に輝いたラジ・リ(40)。パリ郊外、アフリカ系移民が多く暮らす街を舞台に、警官と子どもたちのある一日を、緊張感の途切れない物語にした。
「僕自身がこの地域の出身で、ずっとここでカメラを回し続けてきたんだ。危険で誰も足を踏み入れず、見ようともしない。こういう場所がフランスにあることを、世界に知らしめることができたと思う」
ギャングがにらみ合い、犯罪の温床でもある街で、一人の少年がサーカスのライオンの子を盗む。ささやかに思えたいたずらは、予期せぬ騒動へと発展していく。すべて実際に起こったことだという。
「ライオンの話も本当だよ。僕が盗んだんじゃないけど。1週間、かくまっていたんだ」
そう言ってiPhoneの写真を見せてくれた。本当にライオンの子と18歳だった監督が写っている! 衝撃のラストにも現実には結末があるが映画では観客に委ねられる。
「それこそが映画の力だと思う。僕は希望を持たせて描いたつもりだよ。あの地域に必要なのは、いい形での政治的な介入だ。現状に目を向け、ケアをすることなんだ」
マリ系移民2世として13人きょうだいで育った。貧しい暮らしのなかで、映画に興味を持ったのは偶然だった。
「たまたま出会った友人が、アーティスト集団に所属していて、彼らに刺激を受けたんだ。特にスパイク・リーの『マルコムX』(1992年)との出合いは大きかった。『僕ら黒人も映画を作れるんじゃないか?』という希望が生まれたんだ。北野武監督の『座頭市』『BROTHER』も観たよ」
必死にアルバイトをして、17歳でカメラを買った。
「新品のデジタルカメラだ。1万3千フラン(約26万円)を半額にしてもらったけど、高かったね。独学で撮影をはじめて、19歳くらいから少しずつ仕事を頼まれるようになった。でも映像で生計を立てられるようになったのはここ4、5年ほどだ」
成功するための努力は並大抵ではなかったと振り返る。そして同地域の子どもたちの未来はいまだに厳しい。