「犯罪に走ってしまう子どもたちをつなぎとめるのは“教育”だ。技術を身につけることも大事だ。だから学費無料の映画学校を立ち上げたんだ。映画学校はフランスにたくさんあるけれど、どれも高いし、高校や大学の卒業資格が必要だ。機会の平等は実現されていない。でも、僕らの学校は広く開かれている」
格差や貧困など世界が抱える問題に、映画が一石を投じる力になると信じている。
「僕らの世代はまだ、将来こうなりたいという夢があった。でも、いまはそういう夢さえも持てない子どもたちが多い。欲求不満だけを抱えて、夢を見ることも諦めている。僕や仲間たちが映画を作ったり、役者として活躍したりすることで、彼らに『何かになりたい』という希望を持たせることができると思うんだ」
◎「レ・ミゼラブル」
かつてヴィクトル・ユゴーの同名小説に描かれた街を舞台に、現代社会の問題を鋭く描き出す。公開中
■もう1本おすすめDVD「12か月の未来図」
「犯罪に走ってしまう子どもたちをつなぎとめるのは“教育”」──そう話すラジ・リ監督だが、かつては学校が嫌いで17歳で高校をやめてしまったらしい。フランスの教育現場が抱える困難さは、昨今の映画で多く描かれている。なかでも監督の経験は、「12か月の未来図」(2017年)の状況に近いかも、と思った。
パリのエリート校のベテラン教師フランソワは、ひょんなことから郊外の問題校に赴任させられる。アフリカ系移民の多い中学校は荒れまくり、教師たちもやる気ゼロ。「問題児はすぐに退学させればいい」という環境だった。
決して熱血教師ではないフランソワだが、そんな状況を受け入れるのもプライドが許さない。まず子どもたちの複雑な名前を覚え、なんとか興味を引く授業をしようと知恵を絞るが──という話。
教える側にも問題がある。子どもは機会を与えれば、応えてくれる。きれいごとでないリアルを感じるのは、本作の監督オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルが2年間、郊外の中学校に通って取材をした経験に基づくからだろう。しかもフランソワ先生が生徒の学びを引き出す教材は、小説「レ・ミゼラブル」なのだ!
◎「12か月の未来図」
発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2020年3月9日号