2007年から約12年間、アエラでコラムを連載していたぐっちーさんが亡くなって約5カ月。トランプ大統領誕生から、亡くなる直前に書かれた絶筆までの177本を完全収録した遺作、『ぐっちーさんが遺した日本経済への最終提言177』が2月21日に発売された。そんな177本から、編集者が真っ先に読んでほしいと思った「名作」トップ10を厳選。今回は番外編として、クスッと笑える1本「『みんな』でそう決めた、N社の役員たちの会話」を紹介する。
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架空の1部上場企業「N社」の役員たちが、東京・築地の料亭Sで飲み会中です。
経理担当のO役員「この子会社に払う手数料、高くないですか。毎度1社だけずぬけてますし、こう度重なるとちょっと問題になりますね」
ぐっちー専務「お前そんなこと言ったって、これは有名なG社長案件でちゃんと担当部長のハンコまで押してある。今彼の言う事にノーなんて言ったら、ボーナスなしじゃすまないぞ(完全に忖度中)」
O役員「Gさんはこれを払ってどうするつもりなんでしょう? まあ、払っちゃったらその後は知ったこっちゃないんでしょうけどね……(どうせ俺の金じゃないし)」
ぐっちー専務「何言ったって、会社の将来のためにはプラスだ、とGさんは言うに決まってるわな。実際はわかんないけど。金額の大小ではなく会社の将来を考えて……と経営者に言われたら、それはそれで正論ですね、と言うしかないだろ。なあ、M常務」
M常務「ここでGさんがへそ曲げるといろいろ厄介ですよね~(関わりたくない)」
ぐっちー専務「そうだぜ、今M常務がやってる案件なんて、Gさんがダメって言ったら一発でダメになるぞ。社内のゲシュタポがあちこちで活動中だからな。お前が反対したとわかれば、プロジェクトも地位も吹っ飛ぶぞ」
M常務「そうですね~、わがN社全体からみたら大した金額ではないですからね。Gさんが満足して、機嫌よく仕事をしてくれるならそれはそれで、まあ、授業料みたいなもんで……」
O役員「それもそうですな。Gさんは過去にあれだけ実績もあるわけだし」
かくして、本案件は正式に取締役会で決議されました。その後逮捕されたG社長は「私はおかしなことは何一つしていない。すべてわが社のためにやったことで私はわが社を心から愛している」と主張しました──。あくまで架空の話ですよ。
こうして、部下がトップの意向を忖度して物事を進めるようになると、事態は繰り返され、二度と後戻りできなくなります。正式な手続きを経ており、G氏から直接指示があったわけでもない。「みんな」がこれでいいと思っている、という社内の「空気」のなせる業と言ってよく、G氏の責任は極めて曖昧となるのです。
そりゃG氏は法令違反をしているつもりもなく、周りが決めた、と本気で思っているでしょう。「みんな」という人格は存在しないのですが、これが日本の意思決断に常に大きくかかわるのです。
※AERA 2019年2月4日号