光の演出が鮮やかな世界SF大会の開会式。「とにかくスケールの大きさに衝撃を受けた」と早川書房の梅田麻莉絵さん。登壇者の右端が劉慈欣さん/2019年11月22日、四川省成都で(写真:梅田さん提供)
光の演出が鮮やかな世界SF大会の開会式。「とにかくスケールの大きさに衝撃を受けた」と早川書房の梅田麻莉絵さん。登壇者の右端が劉慈欣さん/2019年11月22日、四川省成都で(写真:梅田さん提供)
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中国で発売されている『三体(サンティ)』3部作。第2部は第1部の1.5倍、第3部は第1部の倍の分量という (c)朝日新聞社
中国で発売されている『三体(サンティ)』3部作。第2部は第1部の1.5倍、第3部は第1部の倍の分量という (c)朝日新聞社

 日本ではビジネスパーソンが手に取り、アメリカではオバマ前大統領も在任中に愛読した中国のSF小説『三体(さんたい)』。中国のみならず世界各国で大ブレークした背景を探る。

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 劉慈欣(リウツーシン)さんのSF小説『三体』の世界的な評価がきっかけとなり、中国でSFへの関心が高まっている。昨年11月には四川省成都で世界SF大会を開催。参加者は1300人を超える盛況で、中でも際だって注目を集めたのが劉さんだ。

 劉さんは最近まで発電所にエンジニアとして勤めていた。勤務の傍ら小説を書き続け、2006年から中国のSF雑誌「科幻世界」に連載されていた『三体』が08年に単行本として刊行されると、人気が爆発した。

『三体』の主人公は、物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望したエリート科学者・葉文潔(イエウェンジェ)。失意の日々を送る彼女はある日、謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは人類の運命を左右しかねないプロジェクトが進行していた。彼女が宇宙に向けて発信した電波は、惑星「三体」の異星人に届き、数十年後、科学的にありえない怪現象が人類を襲う──。

 壮大なスケールの物語は、続刊となる『黒暗森林(こくあんしんりん)』『死神永生(しにがみえんせい)』が刊行されると、中国語版だけで3部作合わせて2100万部を突破。14年に『紙の動物園』で知られる中国系アメリカ人作家、ケン・リュウの翻訳で『三体』の英語版が出ると、アメリカでも版を重ねた。

 15年に「世界最大のSF賞」と言われるアメリカのヒューゴー賞を受賞したことも人気に拍車をかけた。もともと英語圏の賞で、アジア圏の作品どころか、英語以外で書かれた作品が長編部門で受賞することも前代未聞の出来事だった。

 FacebookのCEOザッカーバーグやオバマ前大統領が愛読していることでも知られ、ビジネスパーソンの関心も高まった。現在13万部を突破した日本での売れ行きについて、早川書房の編集担当者・梅田麻莉絵さんは言う。

「海外SFの読者は、50~60代の男性が多いのですが、『三体』の読者層は従来のSFファンよりも若く、30~40代のビジネスパーソンが多くなっています。電子書籍の比率が高いのも特徴的です」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年2月24日号より抜粋

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