研修医や大学院生が日常的に無給で診療を行う「無給医」が問題になっている。全国の無給医は少なくとも2千人以上にのぼるという。AERA 2020年1月27日号から。
【もはや奴隷労働「医師としての人権も尊厳もない」 2千人超える「無給医」の実態】より続く
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「無給医」は少なくとも戦後から存在しており、現在まで受け継がれてきた。だが、低賃金で働く研修医の過労死や雇用契約を結ばないまま診察する大学院生の存在が取り沙汰された。文科省は大学院生と大学が雇用契約を結んでいるか調査し、13年には各大学から「雇用契約を100%結んだ」と回答を得た。
それでもなお、実態は異なる。19年の文科省の調査で128人の無給医がいると報告した千葉大学はAERA本誌取材に、無給医がいるのは、「各診療科の範囲内で適正に雇用することを求めているが、一部の診療科において枠を超える大学院生を診療に従事させるなどの認識不足が原因」と答えた。
悪質な圧力もある。ある大学の大学院生は、医局からのアンケートに労働実態を「週5日」と申告したところ、上司から「3日にしろ」と指示されたという。
全国医師ユニオンの植山直人代表(61)は「医師業界には、若いうちは丁稚奉公(でっちぼうこう)という意識がある。大学病院はそれを利用している」という。
大学院生や専門医を目指す医師は、多くの場合、大学病院の医局に入る。医局はトップに教授、その下に准教授、講師、助教といった限られた有給ポストがあり、下層に大学院生、専門医を目指す医師というピラミッド構造だ。人事権や研究費の配分は教授が握る。冒頭の男性は「教授に嫌われたら、就職できなくなることもあり得る。医局の意向を断ったらどうなるかわからない」と話した。
医療ガバナンス研究所の上昌広医師(51)は、「このままでは日本の医療の水準が下がる」と案じる。
「無給医」は生活のため、大学病院やアルバイト先で働きづめだ。多くの場合、雇用契約もなく、労働時間や健康管理の対象とされない。雇用されている医師の働き方改革のしわ寄せがいくのは、事実上、無制限に働ける「無給医」だ。過重労働が横行する環境下では、医療ミスも起こりやすい。当直明けの勤務では、約7割の医師が過労によりカルテの書き間違えといったミスを起こすと答えた調査結果もある(全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査2017」)。