北朝鮮内は軍を中心に外貨不足への不満が高まっているとされる。正恩氏が国内の不満を抑えきれないと判断すれば、核実験やICBM発射といった軍事挑発を選択する可能性がある。朝鮮労働党創建75周年にあたる10月10日には、国威発揚を図る必要にも迫られている。
あるいは、正恩氏が国交正常化に伴う巨額の経済支援を念頭に置き、日本に接近するかもしれない。安倍晋三首相は「無条件での日朝首脳会談開催」に意欲を示すが、北朝鮮への経済制裁を進めてきた国際社会と歩調を合わせた対応が求められる。
一方、東アジアの残る三つの火薬庫はどうなるのだろうか。
日米豪などは、三つの火薬庫で勢力を広げる中国の軍事力に脅威を感じつつ、有効な手を打てずに来た。米国が19年に決めたのが、ロシアとの間で締結していた中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱だった。
米国は今後、数年間のうちに中距離ミサイルを東アジアに展開したい考えで、中国の中距離弾道ミサイルを中心とした軍事力増強の抑止を狙うだろう。
ただ、中国はすでに様々な場面で米国の動きを強く牽制(けんせい)している。19年も8月、11月に行った日中外相会談や、12月の日中韓首脳会談の席などで、何度も米国の動きに同調しないよう、日本や韓国に警告した。
日中関係は4月に予定される習近平中国国家主席の国賓訪問までは順調に進むとみられるが、その後は一転、厳しい対立局面に陥る可能性がある。尖閣諸島付近への中国公船の侵入も続いている。国際社会が懸念する香港や新疆ウイグル自治区などの人権・民主化問題も深刻だ。
こうしたなか、東アジアの安全保障を安定させる役割を担ってきた日米韓の防衛協力が揺らいでいる。
日韓は昨年11月、軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の破棄こそ回避したものの、徴用工判決問題や日本の韓国向け半導体素材などの輸出管理問題で解決のめどが立っていない。
東アジアにおけるロシア・中国・北朝鮮と、日米韓との力の均衡が崩れると、偶発的な衝突が起きる危険性も増えそうだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)
※AERA 2020年1月20日号