


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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意外なほど笑えて哀しい。第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝いたポン・ジュノ監督(50)の新作は、現代の格差社会を痛烈に切り取った悲喜劇だ。
都市の「半地下」に住む下層階級の一家。その長男がひょんなことから高台に住む金持ち一家の家庭教師になる。彼らは知恵を絞り、妹は家庭教師、父は運転手、母は家政婦として、丸ごと金持ち一家に入り込む。が、その家にはある秘密があった──。予測不能な物語の鍵は「半地下」という空間に隠されている。
「ソウルでは路地裏に行くと、実際に半地下の居住空間がたくさんあるんです。地下ではなく半地下というのがポイントで、うまくいけば地上で日差しを浴びることができるし、うまくいかなければそのまま地下に堕ちていく恐怖がある。主人公一家の状況をうまく表現できると思いました」
社会の階層もイメージした。
「『スノーピアサー』では階層が横並びでしたが、今回は貧富の差が垂直に、縦方向に組み立てられている感じです。格差はこの時代に避けられない問題だと思いますから」
怪獣ものやSFなどエンターテインメントでありながら、社会への問題意識や視点を投げかける作品を描いてきた。
「政治的な映画を撮るつもりはまったくないんです。ただ2時間観客を惹きつけるには、深みや人間の掘り下げが必要。そうなると社会的な視線はおのずと入ってくる」
ああ、おもしろかった! と映画館を出てふと気付くと、脇腹に血がにじんでいる。そんな作品が理想だ。
「映画に知らぬ間に肉をえぐられていた。そんな気持ちになってもらえればうれしい。そこから腸が飛び出していたりとかね(笑)」
監督はどんな家庭に育ったのだろう?
「半地下ではなかったですが、典型的な中流家庭です。父はデザインを教える仕事をしていて、誰も旅行に行かず、家のテレビで映画ばかり見ているような家族でした。それで中学生のころから映画監督を目指していたんです」