バンドのギタリストがソロ作品を出す際、映画の劇伴になることが多い。例えばイギリスの人気バンド、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドは、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や「ファントム・スレッド」といったポール・トーマス・アンダーソン監督作品のサントラをソロ名義で手がけている。菅原の今回の作品は、確かにそうした海外の先輩格ミュージシャンを思い出させるだろう。
だが、「ドンテンタウン~曇天街~」は井上監督の映画のサントラであると同時に、まるで菅原自身の遠い記憶を親しい友人たちと共有したような私小説的楽曲集だ。演奏は菅原のソロ・プロジェクト=菅原慎一BANDのメンバーが中心。シャムキャッツのベーシストでもある大塚智之をはじめ、水谷貴次(ドラム)、松村拓海(フルート)、内藤彩(バスーン)、芦田勇人(ペダル・スティール)といった別バンドなどで活動するツワモノ・クセモノたちがサポートしている。同時発売となる7インチ・シングル「Ground Scarf / Seashell Song」に至っては、菅原慎一BAND名義でのリリースだ。「仲間とのつながり」は、団地に暮らしていたティーンの頃から今に至るまで、彼の音楽人生を豊かにするキーワードなのかもしれない。
2019年、シャムキャッツのデビュー10周年と、ソロ・デビュー元年を同時に迎えた菅原。しかも、忙しい合間をぬって、台湾、韓国、タイなどに何度も足を運び、現地のミュージシャンと交流を深めた。菅原はアジアと日本のインディー・ポップ・シーンの重要な架け橋的役割も果たしているのだ。千葉の団地を出発点とする音楽家・菅原のフレンドシップは、今、映画の世界へと、そして海を越えてさらに遠くへと広がろうとしている。(文/岡村詩野)
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