アメリカの山奥にある土砂崩れ多発エリア。ゲートで道がふさがれていて実質は立入禁止なのですが、「禁止」ではなく「自己責任で進んでください」という言い方になっています(写真/著者提供)
アメリカの山奥にある土砂崩れ多発エリア。ゲートで道がふさがれていて実質は立入禁止なのですが、「禁止」ではなく「自己責任で進んでください」という言い方になっています(写真/著者提供)
この記事の写真をすべて見る

 東京に行ったとき、代官山の住宅街を歩いていたら、目の前に長い階段が現れました。のぼってみると、頂上に広がっていたのは都心とは思えないほどの深い緑。見晴らしのいい高台からは富士山の姿を望むこともできました。こんなことは、普段わたしが住んでいるアメリカではめったに起こりません。アメリカは住居・店・公園のエリアがくっきり分かれており、住宅街はどこまで歩いても住宅街。街中に歩道が張り巡らされているわけではないので、そもそも徒歩で移動することがあまりありません。入り組んだ路地をさまよい、思いがけない場所にたどり着くのは、日本の街を歩く醍醐味のひとつです。

【写真】日本のお弁当は手間がかかりすぎ! アメリカの簡単ランチはこちら

 久々の日本、やはりいいところだ──とすっかり愉快な気分になって歩いていると、ある看板が目に飛び込んできました。「宴会禁止」。のどかな公園にはそぐわない、力強いゴシック体です。ずいぶんぶっきらぼうな看板だなぁ、まぁこんなに閑静な住宅街で宴会なんか開かれたらうるさいだろうし、過去に何度も騒音トラブルがあったからこれだけ強く言わなければいけないのかもしれない──などと考えながら歩いていたら、また別の文字が目に入ってきました。「ポイ捨て厳禁」。これまた無粋なゴシック体です。ポイ捨てする気はさらさらないのですが、なんだか怒られたような気分になり、肩をすくめて歩いていると、注意書きはこれらだけではないのでした。「スケートボード禁止」「花だん進入禁止」「バーベキュー・たき火・花火等は禁止です」「犬を入れないで下さい」──。公園中に、あれはダメこれもダメと看板が立ち並んでいるのです。

 よく見ると、日本の公園にはこのような注意書きが必ずひとつはあるのでした。子どもの遊具になると、「跳び下りない」「ものを投げない」といった基本的な注意から、「上着の前をあけっぱなしにしない」「ひもつき手袋はしない」「マフラーなど引っかかりやすいものは取る」など、まるで風紀委員のように細かく服装を規定するものまであります。ある公園では「Never play with your jacket flapping.」などと英語表記もしてあって、より不自然さを感じてしまいました。
 

著者プロフィールを見る
大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

大井美紗子の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
7月16,17日開催Amazonプライムデー。八村塁選手が厳選するアイテムは?
次のページ
頭ごなしに「禁止」しないアメリカ