在宅医療を受ける患者が増加するなか、看取りや死の現場に、異業種から飛び込む人が増えている。元携帯ショップ店員の女性は在宅医療を支える「在宅医療PA」に転職。人の死に直面する悲しい仕事という一面もあるが、それでも女性は「天職」だと話す。その理由は何なのか。AERA 2019年12月9日号では、在宅医療PAの仕事に迫った。
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「調子はどうです? 顔色はよさそうですね」
11月中旬、菅原遥さん(26)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性患者(77)の自宅にいた。菅原さんの呼びかけに、男性の表情が和らいだように見えた。
ALSは全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病だ。男性は2015年に発症、現在は寝たきりとなり、人工呼吸器を装着して在宅医療を受ける。菅原さんは昨年6月から1週間に1度、医師と一緒に男性宅を訪問する。この日は定期診察で、医師が症状に変わりないことを確認した。菅原さんは笑顔でこう話す。
「私たちが来ることを楽しみにしてくれている患者さんがいて、ご家族からも感謝してもらえます。すごくやりがいを感じます」
菅原さんは4年前までは都内の携帯電話のショップで店員として働いていた。「在宅医療」が何なのかさえ知らなかった。それが今は「在宅医療PA」として働いている。
在宅医療PAとは、菅原さんが所属する「やまと診療所」(東京都板橋区)が独自に養成している職種だ。PAは「Physician Assistant」の略。「医師のパートナー」だ。元々「PA」はアメリカでは国家資格として認められた制度。在宅医療PAはそれを下地に14年、同診療所の安井佑院長(39)が日本で初めて在宅医療の現場に取り入れた。仕事は車の運転、診療補佐、カルテの作成。さらに患者や家族の要望を聞き、医師や看護師、ケアマネジャーなどと相談・調整……。一方で医師は、在宅医療PAがいることで診察の効率が上がり診療件数を増やすことができるだけでなく、治療に集中でき質の高い医療の提供が可能になるという。