松谷さんはそのときの心情をこう振り返る。
「正直ホッとしました。ついキレて、死にに行きましたけど、その瞬間、死にたくない自分に気付いたので」
松谷さんの心の支えはアニメだった。
「誰も味方がいなくてもアニメはあるって。親からアニメを禁止されていたら死んでいたかもしれません」
松谷さんは試練に直面するたび、自分に起きていることを、頭の中でアニメ作品の物語のように置き換えるのだという。この習慣を松谷さんは「劇場型」にする、と表現している。いじめのフラッシュバックに見舞われたときは、華麗に困難を突破していく架空の物語の主人公に自分を重ね、できる限り傷口をふさいだ。自分が置かれた状況を客観視し、現実との間に距離を保つことで乗り越える術をいつの間にか身につけていたのだ。
「松谷リコ」も、アニメの登場人物の名前をミックスしたハンドルネームだ。
※名もなきうたを紡ぐ人~街頭でのちらし配りが未来へのカギをくれた(後編)に続きます。このシリーズは日常で出会ったり、すれ違ったりしているかもしれない、さまざまな仕事と向き合う人たちの声に耳を傾けます。
(文/編集部・渡辺豪)
※AERAオンライン限定記事

