

天皇の即位を祝うパレードの延期が決まった。その前に、ある行事が中止されていた。 猛威を振るった台風19号で被災した人たちへの配慮に、「平成流」の踏襲が見えた。AERA 2019年10月28日号に掲載された記事を紹介する。
【写真】2017年に起きた九州北部豪雨の被災者に声をかける両陛下
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「天皇陛下即位の祝賀パレードを延期で調整」──10月17日正午すぎ、速報が流れた。台風19号の影響で東日本の広範囲に被害が及び、被災者に配慮したという。政府は18日の閣議で、22日に予定されていた「祝賀御列(おんれつ)の儀」を延期し、11月10日に開催することを正式決定した。
延期決定までの経緯はこうだ。
10月12日に台風19号が日本を直撃。朝日新聞の集計では17日夜現在、死者は福島や宮城など12都県で78人に上り、13人が行方不明、4千人以上が避難する事態となった。ネットでは「台風でこんなひどい状況なのに、まさかパレードやらないよな」などとささやかれたが、菅義偉官房長官は15日の会見で「即位礼正殿(そくいれいせいでん)の儀(ぎ)や祝賀御列の儀などの準備については淡々と進めていきたい」と述べていた。
同じ日に会見した宮内庁の西村泰彦次長は、天皇陛下(59)と皇后雅子さま(55)が数多くの方々が被災されていることに心を痛めており、被災された方々の生活が早く元に戻ることを心から願っている、と伝えた。
だが、同じ会見で「中止」が発表されたものもあった。20日の上皇后美智子さまの85歳の誕生日について、ご一家でのお祝いの昼食以外、すべての行事を取りやめることにしたのだ。台風発生後、上皇さま(85)と美智子さまは早朝から夜まで被害を伝えるニュースを注視し、被災地域の広さ、堤防決壊数の多さに大変心を痛めていたという。
昭和や平成の即位礼は、服喪の期間があり、改元から2年近く経って行われた。今回は改元から5カ月余り。
「大災害があれば、すぐに現地を訪れて被災者を励ます上皇や上皇后の姿がまだ人々の記憶に焼き付いている時期ですから、あたかも被災者をそっちのけにして派手なパレードを行うことへの抵抗感があったのでしょう」
と放送大学教授の原武史さん(57)は見る。