ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
写真:Gettyimages
2007年12月から約12年間にわたり、AERAで「ぐっちーさんのここだけの話」を連載されていたぐっちーさんが9月24日午後、急逝されました。体調不良から連載をしばらくお休みすることを決め、休載前最後となるこの記事を仕上げた当日のことでした。
最後の記事は、7月に滞在した米カリフォルニア州アナハイムで巻き込まれたある事件をもとに、「カリフォルニア的思考」やトランプ大統領支持の背景について考察した内容です。笑って、怒って、シャンパンを飲んで。「らしさ」満載のぐっちーさんがいます。
葬儀はご家族で執り行われました。ぐっちーさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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少し古いですが、7月にカリフォルニア州アナハイムに滞在したときのお話を。全米納税ランキング1位を何度も取っているぐらいでお金持ちが多く、夜中の2時に歩いても全く命の危険を感じないというアメリカでは極めて珍しい街です。エンゼルスに移籍した大谷翔平君はいい選択をしましたね。
そんな街でも事件は起きます。なんと、ワタクシのキャッシュカードがホテルのATMに吸い込まれて出てこなくなったのです。「えー、困るじゃん!!」といつもの剣幕でフロントへ行ったところ、応対した女性はこんな感じ。
「それは大変ね。本当にごめんなさい、でも私じゃどうにもならないし、うちのメカニックも手が出ない機械なの。銀行の人が来るまで我慢して。それまでのお金はホテルで立て替えるから。ところで、あなた今日は元気なの? 笑ってないから体調が悪いのかと思って。(俺は怒ってるんだぞ!)ご飯はちゃんと食べてるの? 代金はホテルにつけといていいんだからね。じゃ、明日も良い日をね! あっはっは……」
もはや怒る気力もありません。カリフォルニアでは万事そんな感じで、トラブルは起きて当たり前、起きたらそれはそれで仕方ない、という考え方です。どうしてくれるんだ! カードはいつ返ってくるんだ!と押し問答をするより、そのうち返ってくるからそれまで我慢しててね、こっちで面倒見るからさ!的な解決法の方がはるかに優れているような気がします。
「そりゃ私だってあんたみたいにATMでばんばんお金を下ろして毎日シャンパン飲むような生活をいつかしたいの。でもそのためにはまだまだ努力をしないといけないわね……。あなたは日本人なのにこんな高級ホテルで自由にお金を使って、すごい努力をしたのね!」
努力をすれば報われる、という希望がこの国にはまだある、これがアメリカンドリームなんだ、と改めて思ったわけです(僕は大した努力をしたわけではないですが 笑)。
アメリカの貧困層というのは日本のようなかわいいものではなく、彼ら向けに「クルマに轢かれたリスの調理方法」なんて本が出るくらい。ただ、それもアメリカ。彼らの中にあるのは「未来は明るい、将来は何とかなる」という希望です。今は苦労しているが、この国にいれば絶対それでは終わらない、と信じている人々が最後の望みをかけて投票したのがトランプ大統領という背景を忘れないほうがいいと思います。
さて、ワタクシ少々体調を崩してしまい、しばらく連載をお休みさせていただきます。そのうち帰ってくるからそれまで皆様もお元気で!
※AERA 2019年10月7日号