■すぐにも入居させたい「耐えられない行為」とは
施設入居を即、決意するきっかけというものもあります。認知症を発症して、弄便(ろうべん、自分の便に触ったり食べたりする)や性的な行動がみられたときです。
「すぐにも母の入居を希望します」と言ってきた50代の男性がいました。一人暮らしの80歳の母親が「まだら認知症」になり、男性は心配で時々母親宅に泊まるようにしていました。ある日、夜中に母親が自分の布団の中に入ってきて、驚いて跳び起きました。どうやら息子のことを10年前に亡くなった夫(男性の父親)と間違えての行動だったようです。
このような行為は、子どもにとっては耐えきれないもので、二度と受けたくない、近寄りたくないと感じてしまいます。介護のプロである私たちでも、自分の親だったら、やはり耐えきれずに他の人に介護を任せたいと思うでしょう。
■順番がきたときに再び迷うのを避けるには
また、一度は決心して入居申し込みをしたあとに、もう一度、決定に迷うシーンがあります。それは「明日にでも入居できます」という連絡を受けたときです。
特養(特別養護老人ホーム)は入居希望者が多く、なかには申し込んでから1年待ち、2年待ちのような施設もあります。ようやく順番がきたとき、「順番がきましたよ!」と私たちが意気込んで連絡すると、「いまはちょっと……」という返事が返ってくることが実に多いのです。どうしても決心がつかなくて、順番を後ろにまわして、また待機するケースも少なくありません。
私は、入居申し込みをしたら、順番待ちをしている期間に利用できるデイサービスやショートステイサービスなどを積極的に体験して、介護サービスを利用する生活に慣れておくことをお勧めしています。最初のうちは見学気分で利用、徐々に便利さや思いのほか快適なことに気づいてショートステイの期間が増えてくる、そして順番がまわってきたときに、「これだけショートステイで利用しているんだから、もう施設での暮らしでもいいな」と思える、そのころには介護スタッフともなじみになっていて、人間関係の面でも親も子どもも安心して入居することができる、そういう進め方がいいのではないでしょうか。