合宿を行うナショナルトレーニングセンター(NTC)のバスケットコートの周りは、佐藤が依頼して購入したトレーニング器具で埋め尽くされた。通称「スポーツジャングル」。
「時間が惜しい。NTCにもトレーニングルームはあるが、練習後すぐにやってほしい」
最初は「疲労が残ってしまうのでは」と消極的だった選手が、1年経つと変わっていった。
そんな意識改革が実を結んだのが、W杯アジア予選の最終2試合だ。ファジーカスの日本国籍取得が間に合ったとはいえ、八村、渡邊抜きの戦いで2連勝。鍛えた筋肉で6キロ増量した2メートルのベテラン、太田敦也(35)ら国内組が成長を見せた。
勝利に導いたヘッドコーチ(HC)のフリオ・ラマス(55)の手腕は言わずもがなだろう。ラマスは日本と体格が似たアルゼンチン代表の元HC。同国も44年間五輪に出られなかったが、1996年アトランタに出場、04年アテネでは金メダルを獲得した。育成強化の筋道をつくったのがラマスだ。
「低迷期から脱出させた理由を調べよう」と、東野は米国留学後にアルゼンチンを訪れ修士論文を書いたうえ、ラマスをHCとして連れてきた。
同様に米国で学んだのは、筑波大学男子バスケット部HCとして馬場雄大(23)らを育てた吉田健司(60)だ。現在は技術委員会アドバイザーも務める吉田は、育成に定評のあったスペイン、リトアニアを視察した。
「ゴール下はレイアップではなくすべてダンク。今のトレンドである、サイズもあって速くて上手いオールラウンダーの選手がたくさん育っていた」
吉田の提言もあり、日本協会はその後、長身選手のみを集めて強化する「ビッグマンプロジェクト」を開始。大きい選手はゴール下にいればいいといった日本の古い概念を取り払い、八村や渡邊、馬場に続く、世界基準のオールラウンダーを育てた。
世界のトレンドに沿った育成、フィジカルを軸にした意識改革の2本柱がバスケ男子を強くした。その背景に、東野ら、自ら海を越え研鑽を積んだ者たちの存在があったのだ。(文中敬称略)(ライター・島沢優子)
※AERA 2019年9月2日号