新海の特異さは、まずそのキャリアにある。もともとゲームメーカーに勤務していたが、02年、自主制作の短編アニメ「ほしのこえ」を都内のミニシアターで発表した。それまで誰も見たこともないような美しい絵、しかもごく普通の街並みが実写以上の表現力で精緻(せいち)に描かれ、アニメファンを仰天させた。主人公に心境をモノローグ(独白)で語らせるという手法も斬新だった。公開直後からネットで評判になり、2カ月後にはDVDも発売された。

 以降、じわじわとファンを増やし、ほぼ2~3年に1度のペースでコンスタントに4作品を発表。23館で上映された「言の葉の庭」(13年)を経て「君の名は。」でいきなり全国300館上映という舞台を与えられ、大ヒットを収めた。

「彼の作品は基本的に本人の体験なんです。田舎から出てきて東京をさまよう、思春期の少年のもやもや。『君の名は。』も基本はその流れで作られていますが、まったく別種のヒットの仕方をした」(津堅さん)

 ヒットの要因はさまざまに分析される。絵の美しさ、ストーリー展開の見事さ、背景にある震災のイメージと「絆」の共通体験……まさに時代がピッタリ合った、としかいいようがない。

「新海監督は熱烈なアニメファンというより、生まれたときからアニメが周囲に自然にある環境に育ち、自分の内にあるものを具現化するためにアニメーションを使った。そこがおもしろいところです。彼以前にアニメーションでそれをやり、ここまでメジャーな監督に成長した例はありません」(同)

 確かに著名なアニメ監督はみなアニメーション制作スタジオに就職し、ある時点で長編監督になる道筋を辿っている。高畑勲(いさお)(享年82)、宮崎駿はともに東映動画(現・東映アニメーション)などを経てスタジオジブリを設立。「未来のミライ」(18年)で、スタジオジブリ作品以外で初めてアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた細田守(51)も東映動画出身だ。

 異例のロングランヒットを記録中の「この世界の片隅に」(16年)の片渕須直(すなお)(59)、「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」などの作画を経て、現在「きみと、波にのれたら」(19年)が公開中の湯浅政明(54)もスタジオで研鑽を積んでいる。

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